【成年後見制度とは】
成年後見制度とは、事理弁識能力(判断能力)が不十分な状態にある高齢者や、障がい者等の方が安心して生活するために、財産管理や身上監護によって、支援・権利保護を目的とした制度です。行政書士は社会貢献の一環として成年後見制度への取り組みを行っており、高い倫理観を持った専門職後見人としても活躍しております。
成年後見制度には法定後見制度(法律による後見制度)と任意後見制度(契約による後見制度)があります。法定後見制度はさらに、事理弁識能力の程度に応じて、後見・保佐・補助の3類型に分かれています。各類型の違いは下表の通りです。
法定後見制度 | 任意後見制度 | |||
対象者 | 後見 | 保佐 | 補助 | 現在の事理弁識能力に問題はないが、将来に備え任意で契約をする者 |
精神上の障がいにより事理弁識能力を欠く常況にある者 | 精神上の障がいにより事理弁識能力が著しく不十分である者 | 精神上の障がいにより事理弁識能力が不十分である者 | ||
申立人 | 本人、配偶者、四親等内の親族等(親族等の申立人がいない場合は市区町村長) | 本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者 | ||
本人の同意 | 不要 | 不要 | 必要 | |
支援者 | 成年後見人 | 保佐人 | 補助人 | 任意後見人 |
報酬 | 本人の支払能力に応じて家庭裁判所が判断 | 契約で定めた額 | ||
取消権・同意見 | 本人の法律行為をすべて取消すことができる | 民法13条1項各号所定の行為 | 申立の範囲内で家裁が定める特定の法律行為 | 契約で定めた事項についての代理権のみで、任意後見人には取消権・同意権はない |
日常家事債務は取消できない | ||||
同意権・取消権を与えるのに本人の同意は不要 | 本人の同意が必要 | |||
代理権 | 全ての法律行為 | 申し立ての範囲内で家裁が定める「特定の法律行為」 | ||
本人の同意は不要 | 本人の同意が必要 | |||
後見監督人 | 必要と判断すれば、家裁が選任 | 必ず選任される |
【成年後見制度の基本理念】
(1) ノーマライゼーション
障がい者と健常者とは、お互いが特別に区別されることなく、社会生活を共にするのが正常なことであり、本来の望ましい姿であるとする考え方。
(2) 自己決定権の尊重
本人の意思を尊重し、可能な限り本人の意向に沿った契約等をすることで、本人の自己決定と生活や財産を保護しようという考え方。
(3) 残存能力(現有能力)の活用
自分らしく生活するために現在ある能力を最大限活用するのが望ましいという考え方。
【法定後見制度】
法定後見制度は現在すでに事理弁識能力が不十分な状態にある人について、本人や配偶者、四親等内の親族等の申し立てによって家庭裁判所が審判とともに適任者と認める人を成年後見人等に選任する制度です。
<後見>
成年被後見人(後見される人、本人)とは精神上の障がいにより事理弁識能力を欠く常況にある者で、後見開始の審判を受けた者をいいます。
成年後見人は本人に代わり、財産を管理するとともに、本人に代わり契約を行う代理権を有します。また、日用家事債務(日用品の購入等)を除き、成年被後見人が行った法律行為を取消すことができます。このため、本人が悪徳商法等の不利な契約を結ばされることが無くなります。
<保佐>
被保佐人(保佐される人、本人)とは精神上の障がいにより事理弁識能力が著しく不十分な者で、保佐開始の審判を受けた者をいいます。
本人は日常的な生活を営むことが可能であっても、本人の利益を保護するために、特定の行為については保佐人の同意を必要とし、本人がすでにしてしまった特定の行為を取消すことができます。
保佐人の同意が必要な行為は以下の通りです。
1 元本を領収し、又は利用すること。
2 借財又は保証をすること。
3 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
4 訴訟行為をすること。
5 贈与、和解又は仲裁合意をすること。
6 相続の承認もしくは放棄又は遺産の分割をすること。
7 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
8 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
9 第 602条(短期賃貸借)に定める期間を超える賃貸借をすること。
<補助>
被補助人(補助される人、本人)とは精神上の障がいにより事理弁識能力が不十分な者で、補助開始の審判を受けた者をいいます。
本人が重要な財産行為を一人で行うには不安があるため、本人の利益のために特定の行為について補助人の同意を必要とし、本人がすでにしてしまった特定の行為を取消すことができます。
補助人の同意が必要な行為は以下の内から家庭裁判所が定めたものに限ります。
1 元本を領収し、又は利用すること。
2 借財又は保証をすること。
3 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
4 訴訟行為をすること。
5 贈与、和解又は仲裁合意をすること。
6 相続の承認もしくは放棄又は遺産の分割をすること。
7 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
8 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
9 第 602条(短期賃貸借)に定める期間を超える賃貸借をすること。
【任意後見制度】
任意後見制度は、本人の事理弁識能力があるうちに、将来に備え予め任意後見受任者(本人の支援者)と契約を締結しておく制度です。任意後見契約は公正証書で締結しなくてはなりません。法定後見制度は家庭裁判所が後見人等を選任するのに対し、任意後見制度は本人の意思で任意に後見人を選択できる点が大きく異なります。契約によって直ちに後見が開始されるわけではなく、本人や配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者の申し立てによって家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときに発効します。任意後見契約の形態は以下の3つに分類されます。
<即効型>
任意後見契約締結後、直ちに家裁に任意後見監督人の選任を申し立て、任意後見契約の発効をもとめる契約形態。
<将来型>
将来、本人の事理弁識能力が不十分になったとき、任意後見契約を発効させる契約形態。判断能力の低下までは契約上特に何もしない、純粋な任意後見契約。
<移行型>
任意後見契約締結後から、発効までの間も、任意代理契約(見守り契約等)によって、財産管理等を行い、事理弁識能力が不十分になった時点で任意後見契約に移行する契約形態。